何日間そうしていたのか、もうジタンは思い出せずにいた。
両手両足だけでなく胴や首にさえイーファの根が絡みつき、どんなにもがいても少しも緩まることはない。腕は肩の高さまで上げられ、足は肩幅に開かれている。磔にされているような状態で、ずっといる。
『ずっと』という曖昧な表現しかできないほど、ジタンは時間の感覚を失っていた。何日で表せる範囲かもしれないし、何週間、何ヶ月も経っている気もする。年単位だったとしても驚かないだろう。それでいて、まだ数分しか経っていないような、数秒しか経っていないような、そんな気もしてくる。
(気が狂いそうだ……)
目を開ければ白。白。白。
(クジャ。ビビ。ダガー。スタイナーのおっさん。フライヤ。クイナ。エーコ。サラマンダー。――みんな)
仲間の顔を次々と浮かべていくが、すぐに白に紛れて消えていってしまう。
顔もまともに動かせない状態で見える範囲には、とにかく白しか目に入らなかった。なのに、身体を拘束しているのはイーファの根だと確信を持っているのだから不思議なものだ。
(オレ、死ぬのか? ……もう、死んでるのか?)
上下左右の感覚すら侵された感覚の中でジタンの脳裏に浮かぶのは、イーファの樹を下りきったときに霞む目で捉えたトロールの姿。あのトロールがジタンたちに気付いたなら、まず間違いなくその腹の中に収まっている。それとも、幸運にも見つからず、誰かに助けられただろうか。
そう思っていたとき、急に足下に火が広がった。
(磔の次は、火炙りか)
他人事のように考えることしかできないが、今更どうしようもない。既に身体中が熱いし、イーファの根も苦しんでいるのか震えが止まらない。
(オレ、死ぬのか。……思っていたよりも静かな最期だな)
ぼんやりと、そんな考えが過る。
(――静か?)
今になってジタンは、この空間に音が無いことに気が付いた。試しに何度か声を出してみたが、声帯が震えている感覚はあるのに音は耳に届かない。
(こんな無音の世界で死ぬのか)
そう思った瞬間、ジタンの耳が音を捉えた。
――必ず帰って来て。
その瞬間、白い視界に少女の後ろ姿が浮かび上がった。
「……ダガー」
その儚い姿は消えることなく、明確に目に映る。
思いに引きずられるように溢れ出た声は、今度こそ音になった。
ジタンの声に共鳴するように、他の仲間たちの姿も次々と少女の周りに並ぶ。
「生きるんだ。――生きて帰るんだ」
そして思い浮かんだのは、あの歌。
愛しい面影を求めて、意識が闇に堕ちた。
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