蒼き光を湛えた星、テラ。そこが紅蓮に染まろうとしていた。




「急ぐのじゃ!」
 フライヤがインビンシブルに乗り込む。
 ミコトは少しの間じっと立ち止まっていたが、しっかりとした足取りでインビンシブルに乗り込んだ。




 少しためらったあと、ジタンは後ろを振り向いた。記憶の中と寸分違わない蒼い光が、彼方から少しずつ紅く染まってゆく。

 その光景は日没を思い起こさせた。


    蒼い空を切り裂く紅い光。


    終わりを予感させる色。


    暖かだけれど、どこか物悲しく。


    突然今までの疲れを思い出し、家が恋しくなってくる。


    家路につかなければならず、楽しいひとときと別れを告げなければならない時。


 悲しみは無かった。ここにいた時間はとても短いものだった上に、良いとは言えない思い出ばかりだったからだ。
 しかし、心の中にある一抹の寂しさは拭いきれなかった。ここは探し続けていた故郷であり、ここで自分は過去に囚われて仲間を手放しかけ、その仲間に救われたのだ。

 ここは自分の生まれた場所。自分が過去に踏ん切りをつけた場所。自分は一人じゃないと思えた場所。
 だけど、ここは――――




 思いが止めど無く溢れて来た時、愛しい人が視界に飛び込んできた。
 彼女は震えていた。おそらく恐怖にではなく、心の葛藤に。
 過去の記憶に怯えてるのではなく、過去の記憶と戦っているのだ。
「ダガー……」
 震えていると気付かれないよう口をきゅっと引き締めているところも、突然名前を呼ばれてハッとするところも、全てが愛おしい。


 ダガーが自分の目を醒まさせてくれた。ダガーが仲間の気持ちを届けてくれた。


「ダガー、行こう」


 そっと手を取り握り締める。
 二人ともグローブをはめているが、確かに互いの体温が伝わった。








ここは
俺の『いつか帰るところ』じゃない
俺の『いつか帰るところ』へ
あの蒼の世界
ガイアへ




願わくは
彼女の震えが止まらんことを
自分の震えが知られぬことを






NOVEL     side.DAGGER


2007.07.20