蒼き光を湛えた星、テラ。そこが紅蓮に染まろうとしていた。




「急ぐのじゃ!」
 まず、フライヤが。そして、それに続きミコトまでも『それ』に飲み込まれてしまった。
 物に恨みを感じるのは馬鹿げている。それは分かっている。しかし、あの目は生き物のそれのように生々しく、思い起こされる情景はどれも悲しく、自分の無力さを思い出させた。





 蒼き船インビンシブル。
 マダイン・サリに崩壊をもたらし、アレクサンドリアを混沌の渦へと陥れた船。その機体が、背後の光に紅く照らされてゆく。

 その光景は、血を思い起こさせた。


    マダイン・サリで流された血。


    イーファの樹で流された血。


    アレクサンドリアで流された血。


    蒼い水に紅い血がとけていく度に、


    どれだけ多くの命がクリスタルへと帰っていったことか。


 怖くはなかった。怖がってなどいられなかった。
 しかし、荒波に揉まれながら遠くに見たマダイン・サリや、砂浜の上に力無く落ちた母の手。人々が崩れ行く街並みの中を逃げ惑う光景。それらの記憶が頭を埋め尽くし、震えが止まらない。

 守られているばかりでは駄目だと思った。
 だから、あの時――――




 過去の記憶に流されそうになった時、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ダガー……」
 突然かけられた声に振り返ると、ジタンがこちらを見つめていた。
 パンデモニウムの中で、ジタンは仲間を巻き込みたくないと言った。故郷の真実を知ったジタンは、仲間を見捨てたのではなく、仲間を守るために一人で行こうとした。


 自分は常に、ジタンに助けられてきた。
 そう言ったら「そんな事ないさ」と返されるだろうけれど、ジタンがいなければ今の自分は無かった。


「ダガー、行こう」


 そっと握られた手を握り返す。
 グローブ越しに伝わる体温に、笑みがこぼれた。








あの時
わたしは『守りたい』と言った
あの蒼い世界の人々を
アレクサンドリアを
あなたを




願わくは
彼に『いつか帰るところ』を
わたしに『大切な人を守る力』を






NOVEL     side.ZIDANE


2007.07.20