黒魔道士の村に住み始めた頃はまだ肌寒かったけど、この前の雨期が過ぎてからは大分暑くなってきたよ。
 雨期に見た、コンデヤ・パタのすぐ下にある水無谷にいっぱいの水が流れる景色はとっても綺麗だったから、水が消えないうちに急いで子供たちに見せたんだ。みんな揃って目と口をまんまるに開けてたんだよ。

 そうだ。もしかしたら、もう知っているかもしれないけど改めて報告するね。
 ――僕に六人の子供が出来たんだ!
 ボクは、あの子たちの父親には288号さんの方がふさわしいと思ってたんだけど、村のみんなから「是非、ビビに」って言われたから、断れなくなっちゃったんだ。それにボクがミコトお姉ちゃんに頼んだから、その責任もあると思って断れなかったんだけどね。
 自信はまだないけど、武器として生まれるんじゃなくて愛し愛されるためだけに生まれた黒魔道士たちのお父さんになれるなんて、とっても素敵なことだよね?
 それに村のみんなが一緒に愛してくれるから、あの子たちもスクスク元気に育っているんだ。


 前の手紙には書いていなかったから、ボクの子供たちを紹介するね。
 子供たちは全員で六人。一番目の子は男の子だよ。名前はレオ・ライブル。レオは頭のいい子で、何かを理解するという行為が好きみたいなんだ。いつも難しい本を読んでいて、ボクに分からない事ばっかり訊いてくるんだ。しょうがないから、ミコトお姉ちゃんかサラマンダーか288号さんに訊くように言い聞かせて、レオもそうしているんだけど、そのせいでボクがレオの中で父親なのかとっても心配なんだ。エーコは、レオはサラマンダーに似ちゃったせいで無愛想だって言ってるけど、それはサラマンダーに失礼だよね? サラマンダーって優しいのに。
 二番目の子も男の子。カルノ・カルニスって名前なんだ。カルノは勉強が嫌いで、いつも外で遊びまわっているんだ。それにね、カルノは飛空挺についての勉強だったら何時間もできるくらい飛空挺が大好きで、ミコトのインビンシブルの研究の手伝いをするために中に入れてもらったときは興奮しちゃって眠れなくなっちゃったくらいなんだよ。
 三番目の子は女の子なんだ。名前はニーシェ・ザグリア。ニーシェは正真正銘の女の子なんだけど、村の中で一番男らしいって言われているんだ。それに、カルノ以上の勉強嫌いなの。でも、懐がすごく深い子で(288号さんがこう言ったんだ)動物たちにも人気があって、この前なんて森の中をフクロウたちを連れて駆け回ってたくらいなんだ。ほんのちょっと口は悪いんだけど、ミコトお姉ちゃんが「元気なのはいい事だ」って言ってたんだ。ボクも本当にそうだと思うよ。
 四番目の子はピッセ・ザウトルって名前の男の子。ピッセは明るくて穏やかな子だよ。外にいることと植物が大好きで、晴れた日はいつも24号さんと一緒に村の入り口の木漏れ日の下でお昼寝してるんだ。そんな子だけど、勉強が嫌いってわけじゃないんだって。雨の日は植物についての勉強をしているし、薬の調合の手伝いをしに道具屋にも行くんだよ。この前はニーシェに自分で作った傷薬を塗ってあげてたんだよ。もちろん、効き目は抜群!
 五番目の子は男の子で、ライザ・ラスクールっていう名前。ライザはピッセと同じで穏やかな子で、レオと同じで読書が好きなんだ。よく家の手伝いをしてくれるんだけど、家にずっと居るわけじゃないんだ。やるべきことをやると、本がいっぱいある288号さんの家かミコトお姉ちゃんの研究室に籠って本を読みふけっちゃって、家に帰ってくるのが1番遅いのはライザなんだ。
 末っ子は女の子で、ローフィ・ジプキー。ローフィは内気な子で、人見知りが激しい子なんだ。そして、いつもボクの後ろにぴったり付いて来るの。今は、大切なお手紙を書いているからって言って、チョコボ舎でボビィ=コーウェンの世話をしているんだ。そうそう、ローフィは人見知りはするけど動物見知り(こんな言葉あるのかな?)はしなくて、ニーシェみたいに動物と仲良しなんだ。もちろん、ボビィとはすごく仲が良いよ。村のみんなは、兄弟のなかで一番ボクに似ているのはローフィだって言うんだ。でも、ボクにはわかんないや。


 あんまり上手に書けなかった気がするけど、六人の子供のことは伝わったかな?
 みんな苗字が違うのはね、この子たちには「兄弟だから」っていう考えに縛られてほしくないんだ。もっと強い絆を感じてほしいんだよ。(本当は、「兄弟じゃない」とも思ってほしくないんだけど……う〜ん、難しい所だね)
 村に来たときには会ってあげてね。あの子たちには色んなお話を聞かせてあげてるから、たぶん興奮しちゃって手が付けられなくなっちゃうと思うけど。(だって、旅の話をするだけで、すごく興奮しちゃうんだもの)


 前の手紙ではジェノムのことを書いたし今回は子供たちのことを書いたから、次は黒魔道士たちのことを書こうかな。それともマダイン・サリの事にしようかな。コンデヤ・パタの事でもいいよね。
 いろいろ迷っちゃうけど、また何か書くつもりだよ。
 今度会えたときまでにどれくらいの手紙を書いているかは分からないけど、ボクの幸せな気持ちが届くように書き続けるよ。















 そこまで書いて、ビビは羽ペンを置いた。書き上げた便箋を、あらかじめ用意していた封筒に入れて封をする。
 そのとき、部屋に低いノックの音が響いた。
「ただいま、お父さん」
「おかえり、ローフィ」
 ビビが身体を捻ってドアを振り返ると、小さな女の子が顔を少しだけ覗かせていた。眉はハの字になっていて、潤んだ瞳は何かを訴えている。
「どうしたの?」
「……あのね、お茶を飲もうと思ったんだけど……淹れ方が分からないの」
 ビビはローフィに優しく笑い掛ける。
「じゃあ、一緒に淹れようか?」
「うん!」
 ローフィは先程と一転して、満面の笑みを浮かべる。
「ちょっと待っててね」
 ビビは手紙を持ったまま椅子から降りて近くの窓を開けると、それを掌の上で燃やした。
 ビビの子供であるローフィは突然炎が現れた事には微塵も驚かない。しかし彼の行動に、疑問を抱いたようだ。小鳥のように可愛らしく首を傾げている。
「お父さん、お手紙燃やしちゃっていいの?」
「うん。いいんだよ」
 ビビは一度ローフィを振り返ると、彼女へ向けた笑顔をそのままに、窓の外に広がる青い空を見上げた。
「――気持ちは必ず届くから」
 吹く風が小さな炎をかき消し、手紙の残骸を連れ去っていく。
 掌の上に何もなくなると、ビビは窓を閉めてローフィと一緒にキッチンへ行った。




 ビビの家の近く。森の手前の雑草の茂みに、燃え残った手紙の欠片が落ちていた。
 焦げ跡に囲まれた文字が、辛うじて見て取れた。






   ―― To Zidane





NOVEL


2007.12.05
last-alteration 2009.01.07